必要な政策変更を起こすには政治的意志が不可欠

エネルギー危機により電力需給がひっ迫する中、日本の電力部門は化石燃料への深刻な依存によって過去に例のないストレスを経験している。2050年のカーボンニュートラル目標に加えて、日本は今年のG7において2035年までに電力部門の完全または大宗の脱炭素化の達成にコミットするとしたが、現在の政策枠組みはこの目標の実現には不十分であり、再生可能エネルギーの普及の大幅な加速を要する。

カーボントラッカーは、最新レポート「Put a Price on It(炭素に価格を付ける)」にて、現行の0.3円/kgCO2という炭素価格を最低3.3円/kgCO2にまで引き上げることで、現在価格が高騰するガスから石炭への切り替えを回避し、エネルギー移行を進める必要があると示した。

本レポートでは、再生可能エネルギーへの移行は、日本を「高い電気料金の歴史」から断ち切り、消費者に低価格で安定的な電力を提供しつつ、日本のエネルギー安全保障を強化できる可能性があることを示した。

そのためには、日本は炭素価格を最低でも3.3円/kgCO2に引き上げるとともに、税収が炭素回収やアンモニア混焼など、そのCO2削減効果や効率性に疑問符が付く化石燃料技術に対して使われるリスク(カーボンプライシングの効果を減ずる抜け穴)に対処する必要があるという指摘を行った。

なお、日本は再生可能エネルギーの導入に時間がかかりすぎており、また、技術面および規制上の障害によって、風力や太陽光発電の設備建設コストが世界でも最も高い水準にあることから、(1.5℃に整合するような)脱炭素化を実現する水準にはまだ達していないと考えられる。

日本政府は現在、既存のカーボンプライシング制度を見直すプロセスにある。本レポートでは、カーボンプライシングが日本の電力セクターに与える短期的・長期的な影響について解説し、現在および将来の議論に貢献することを目的としている。

本レポートでは、3種類の炭素価格シナリオ(3.3円、6.6円、8.8円/kgCO2)をモデル化し、それぞれのレベルにおける影響を検討した。その結果、対策の効果を確実にするための最低価格は3.3円/kgCO2であることがわかった。

図1:他国に比べ高価な日本の再生可能エネルギー設備建設費


出典:カーボントラッカー (2022)

2:カーボンプライシングは再生可能エネルギー発電への転換を促す経済条件を整えることができる

中レベルの価格(6.6円/kgCO2)を想定したシナリオでの石炭・ガス火力発電所運転費と再生可能エネルギーの予想LCOEの比較  (レポート本文より)

 レポートの執筆者Lorenzo Sani(カーボントラッカー 電力業界アソシエイトアナリスト)は、「日本政府は今、再生可能エネルギーへの迅速な移行と温室効果ガスの削減手段として、カーボンプライシングを受け入れる時期に来ている。洋上風力発電を含む再生可能エネルギーは、エネルギー価格を引き下げ、エネルギー安全保障を強化し、EUと米国で検討中の炭素国境調整措置(CBAM)が日本の輸出品に与える可能性がある影響を避けるという観点から、日本経済全体にとって有益である」、と述べた。

最低炭素税が3.3円/kgCO2から2025年までに6.6円/kgCO2に引き上げれば、石炭発電への継続投資の経済合理性がなくなる一方で、ガス発電所の可能性も劇減する。わずか5年後には、ベースロードと柔軟性の提供というガス火力発電所の役割は、再生可能エネルギーと蓄電池で大きく置き換えることができる。

カーボンプライシングの影響は、石炭やガス火力発電所のコストアップにとどまらない。炭素価格6.6円/kgCO2の収益を再投資することで、政府は年間10GW以上の再生可能エネルギー施設を新規に建設することができる。これはコスト削減を加速させ、日本が持つ広大な洋上風力資源を活用することを可能にする。既存の再生可能エネルギー支援制度を拡充し、民間資本を呼び込めば、その効果はさらに大きくなる。

輸入化石燃料を国産の再生可能エネルギーに置き換えることは、化石燃料の輸入費を削減し、長期的に電力コストを引き下げるというプラスの効果をもたらすことができる。

世界的なエネルギー危機に直面している今現在、太陽光と風力が、世界的な商品・エネルギー危機の影響を受けない、安全で信頼性の高い手頃な価格の電力系統を提供できることがこの分析で再び明らかになった。カーボンプライシングは迅速かつ効率的な方法でこの移行を遂行するための重要な手段になりうる。

分析手法

カーボンプライシングは再生可能エネルギーの大規模な普及に必要な資金を集め、輸入化石燃料への依存を恒久的に引き下げ、日本の電力部門で再生可能エネルギーへの移行を加速するための強力な手段になりうる。しかし、日本の現行政策とエネルギー目標値は、2035年までに電力部門をほぼ脱炭素化するというG7における合意に沿っていない。

本レポートでは、アセットレベルでの石炭・ガス火力発電モデルを用いた結果を総合してアップデートし、異なるカーボンプライシングのシナリオが日本の電力部門においてエネルギー移行のスピードにどう影響するかを分析した。以前の研究では[1][2]、ガス・石炭火力発電への依存の継続による日本の経済的リスクに注目している。

ステークホルダーからのコメント

 石田建一氏(JCLP、環境省カーボンプライシングの活用に関する小委員会委員)は、「1.5℃目標の実現には、CO2削減が企業にも消費者にもメリットになるカーボンプライシングの導入が必要と考えている。本レポートでは、適切なカーボンプライシングの導入は、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を加速し、化石燃料の輸入による国富流出を防ぎ、長期的な電気料金の安定にも資すると指摘した。今必要なのは、このような政策を実行する政治的意思である。」と述べた。

 

報道解禁後、こちらからレポートをダウンロードできます:https://carbontracker.org/reports/put-a-price-on-it/

 

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Joel Benjamin               Jbenjamin@carbontracker.org                +44 7429 637423

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カーボントラッカーについて

カーボントラッカー・イニシアティブは、気候変動リスクを今日の資本市場における現実として研究する経済分野の専門家チーム。「燃やせない炭素」と「座礁資産」に関するカーボントラッカーのこれまでの研究は、低炭素経済への移行において金融システムとの整合性を図る方法に関する新たな議論の端緒となった。www.carbontracker.org

[1] Carbon Tracker 2022 – Stop Fuelling Uncertainty(ここをクリック

[2] Carbon Tracker 2019 – Land of the Rising Sun and Offshore Wind(ここをクリック