不可欠な低炭素未来に向けて資金調達を解放する

(初掲載は Business Green

国連気候変動パリ会議(COP21)に先立ち、政策立案者や投資家にとっての緊急課題は、気温上昇を2度以内に抑える見込みを持とうとするならば、低炭素未来への道を切り開くために要する数兆ドルの流れをどう軌道修正するか、である。

5月22日の「国際気候ファイナンスの日」には、資本の流れを変える最善の方法について徹底的に議論しようと、世界有数の金融専門家500名がパリのユネスコ本部に押し寄せるだろう。これはやがて世界的なパラダイム・シフトにつながるかもしれない。

移行は容易ではないだろう。しかし、見識ある資本家にとっては、技術革新とクリーン・エネルギーに基づいた活気あふれる力強い世界経済の土台を築く好機である。

そのような劇的なシフトのためには、硬直した資金調達の流れから資本を引き離す必要がある。私がこの会議で取り上げる「見て見ぬふりをされてきた問題」とは、世界金融がまだ従来通りの「ブラウン」な投資、つまり、石炭、石油、天然ガスを基盤とするエネルギー成長を圧倒的に重視していることである。

 

ブルームバーグのデータによると、世界の化石燃料部門の資本総額は、再生可能エネルギー部門の少なくとも23倍である。国有の化石燃料企業や多角的な鉱山業を考慮すればもっと多くなるだろう。現実を認めよう。圧倒的多数の金融市場の専門家も、彼らが担当する投資の大部分も、依然として「ブラウン」側に集中している。

2014年だけで、化石燃料業界はエクイティ・ファイナンスで約1130億ドルを調達したのに対し、代替エネルギーの調達額はこの10分の1だった。債券市場からは24億ドルを調達し、再生可能エネルギーのほぼ20倍だ、とブルームバーグのデータが示している。このように、情勢は依然として、従来通りの高炭素型エネルギーに非常に有利である。

残念な知らせではあるが、裏を返せば、クリーン・エネルギーへの移行に融資するための財源はすでにあるのだ。単純に、財源を転用するために公平な環境を作りだす必要があるだけだ。気候ファイナンスの日には、グリーンで気候に関する投資のリスクと利益に取り組むために不可欠な作業について耳にするだろう。例えば、気候政策、炭素価格の設定、再生可能エネルギーの支援メカニズム、気候変動債と格付け制度などで、これらはすでに変化をもたらしている。世界銀行は今週の報告書で、各国が自国の経済を手頃なコストで正味ゼロ排出量の軌道に乗せることは可能である、しかし、すぐに取りかかるべきだ、と述べ、また、2013年には5480億ドルに達し、障害となっている化石燃料への補助金の撤廃も奨励している。

こういった取組みはすべて、気候変動ファイナンスの拡大にはるかに大きな影響を与えているはずである。もし、公平な環境で取り組まれていたならば、全くそうだっただろう。しかし、実際はまるで程遠い。理由は、金融市場で化石燃料への投資に伴うリスク・プレミアムが実際よりも低く見積もられているからである。その結果、化石燃料への投資の資本コストがそうあるべき額より低くなっている。

 

もし、金融市場が化石燃料リスク・プレミアムを正確に計算しているならば、グリーンな気候変動ファイナンスに向けたリスクと利益のバランスを図るこれらの取組みすべてにおいて、現在よりも克服すべき障壁ははるかに小さいだろう。一方から奪って他方に返さなくても対等に戦えるかもしれない。そして直ちに、クリーンな再生可能エネルギーは投資家にとって比較的より興味をそそるものになるだろう。また、石炭株と電力会社株で最近見られたような著しい価値破壊のリスクも回避されるだろう。カーボン・トラッカーの座礁資産の研究で示されたように、高コスト・高炭素型の化石燃料プロジェクトに資金が注がれているが、そうしたプロジェクトは投資家に高配当をもたらしそうにないことがますます明らかになっている。われわれの最近の報告書『米国の石炭破綻―構造変化の証拠(http://carbontracker.wpengine.com/report/the-us-coal-crash/)

)』によると、過去3年間だけで、価格崩壊により少なくとも24社の石炭企業が倒産に追い込まれている。さらに、石炭の巨大企業ピーボディ・エナジーなど、多くの米国企業の価値が80%低下している。これは、世界のほかの化石燃料市場で起きることの前触れなのだろうか、と憶測するしかない。

 

来週、記事やビデオによる一連のブログで、公平な環境を作り気候変動ファイナンスを拡大するために必須の6つのキーポイントについて述べようと思う。

1.主流の金融市場ひいては個人資本で注目を集めるためには、現在直接関連のある形で金融市場の言語に気候リスクを取り入れることが必須である。

2.なぜ「カーボン・バブル」が投資家と金融安定に潜在的リスクをもたらすか? 無秩序な移行と各国政府にとってこれが重要な理由。

3.もし、気候金融の拡大という「見て見ぬふりをされてきた問題」について議論するなら、現在、金融市場と資本の99%は従来通りの「ブラウン」に集中している(今はグリーンの23倍)点について。

4.従来通りの「ブラウン」な投資とグリーンな気候に関する投資の間で、公平な環境を作るには何から始めたらよいだろうか。すなわち、秩序のある移行に資金を提供するために、民間部門の資金調達をどのように行ったらよいだろうか?

5.最初のステップとして、なぜ、市場が化石燃料の真のリスク・プレミアムを計算できるほど、金融の透明性や開示が必要とされているのか?

6.最後に、われわれは価値破壊をいかに回避するか? なぜ低炭素への移行に向けた「詳細な計画」、すなわち、化石燃料業界のためのロードマップが必要とされているのか?

 

アンソニー・ホブリーは、ロンドンに拠点を置くカーボン・トラッカーの最高経営責任者(CEO)である。

ブログ2を読む:「化石燃料リスク・プレミアム」に向き合う(http://carbontracker.wpengine.com/facing-up-to-the-fossil-fuel-risk-premium/

ブログ3を読む: 「カーボン・バブル」はいつシステミック・リスクとなるのか?(http://carbontracker.wpengine.com/when-does-the-carbon-bubble-become-a-systemic-risk/)

ブログ4を読む:規制当局は、市場が気候リスクを読み違えた際の備えがあるのか (http://carbontracker.wpengine.com/are-regulators-prepared-if-the-market-misreads-climate-risk)