化石燃料リスク・プレミアム」に向き合う

初掲載はBusinessGreen

2015年5月22日の「国際気候ファイナンスの日」に先立ち、世界をリードする投資家や資本家はパリで会合を開く。話し合われるのは、これまで目を背けられてきたテーマで、いかにして化石燃料への「ブラウン」な投資から民間資本を方向転換させるかということだ。

低炭素経済に向けて大胆に移行するための土台を築き、公平な環境を作り出すために、金融市場は気候リスクや化石燃料への投資の「真の」コストを正確に見積もる必要がある。

しかし、企業は高コスト・高炭素型プロジェクトに資金を投入し続けている。なぜなら、概して不透明なままの戦略的意思決定プロセスで、そのようなリスクが十分に考慮されないためである。

カーボン・トラッカーでは、こうした構造的欠陥を説明し、市場と投資家の両方に警告を発するために、「化石燃料リスク・プレミアム」という用語を作り出した。物価が不安定で、気候に関する規制が強化され、需要が変動し、クリーンエネルギーのコストが急速に低下するという傾向が見られるにも関わらず、これまで以上にコストの高いプロジェクトに企業が投資するなか、そうしたリスクは上昇している。

主に「炭素供給の費用曲線(Carbon Supply Cost Curves)」の研究などの財務分析を通じて、われわれは企業や投資家に対し、十分なリターンを得る目的の前提が化石燃料の高価格であるプロジェクトや、気候変動の制約を受ける世界で「座礁する」可能性のあるプロジェクトを進めることの危険性を示してきた。

オイルサンド、北極圏、深海におけるプロジェクトや石炭に関するものなど、われわれが強調してきた高コストのプロジェクトの多くはまた、炭素排出量も多く、現在、大きな金融リスクをもたらしている。

石油のプロジェクトを見てみると、炭素価格がゼロか低価格だとしても、投資家にとって価値あるものとなるには、高い石油価格が必要となるものが多い。

そうしたなか、われわれの分析によると、現行の政策枠組みでは、今後10年間で1兆ドル以上の資本がリスクにさらされる可能性があることが示された。その背景には、排出量制限、効率向上、技術的進歩、需要に影響を及ぼす中国の成長減速といった数々の要因が重なる重要な局面において、増加する投資が打撃を受けるという状況がある。

その結果、社会と企業は、エネルギーコストの無用な上昇にさらされる可能性がある。われわれはこれを「汚れた1兆ドル(dirty trillion)」と呼んでおり、そうしたプロジェクトは、十分なリターンを得るために1バレル当たり95ドル以上の石油価格を必要とする。

このようなコストの高いプロジェクトの開発や、埋蔵量置換のためにさらなる炭素排出を伴う投資を抑制せずに続けていれば、高コストのプロジェクトへの潜在的な投資は劇的に増加し、2050年までに20兆ドル以上に達する可能性があると、われわれが2014年5月に発表した報告書『炭素供給の費用曲線(Carbon Supply Cost Curves)』で示している。

このところ石油市場は不安定で、石油企業は資本支出予算を大幅に削減しており、われわれの警告はまさに時宜を得ている。

われわれが設けたリスク・プレミアムは、石炭にもあてはまる。石炭輸出市場は非常に脆弱なままで、オーストラリア産石炭の価格は最近、過去6年間で最低水準に落ち込んでいる。市場がこれほどまで崩壊しているので、投資家は根本的な問いについて検討する必要がある。つまり、海上輸送される燃料炭の市場は構造的衰退を迎えているのか、あるいは、単に「スーパーサイクル」の谷の局面にあるだけなのか、という問いだ。

その答えは中国にかかっているところが大きく、繰り返しになるが、中国では意外にも需要が下降する可能性がある。企業が石炭輸出市場の好転を期待して資本を投資していれば、予測した需要曲線とのギャップにさらされることになる。

われわれは最近、このテーマで米国の燃料炭市場に重点を置いた報告書を発表した。そこでの結論は、他のエネルギー資源との競争や汚染対策のための規制強化などの要因が組み合わさり、この部門が回復する可能性は低いだろうというものだ。

石油と石炭の現在のような低価格が続くか回復するかにかかわらず、投資家や企業はそこから教訓を得て、化石燃料の投資慣行に対する見方に持続的な変化をもたらすためにその教訓を役立てなければならない。

高コストの化石燃料プロジェクトに当たり前のように資金を出すのではなく、(例えば、われわれの深く掘り下げた分析によって)市場がこうしたリスクを認識すれば、ようやくクリーンで安定し安価なエネルギー資源の開発のために資本が向けられるようになり、もっと低コストでクリーンなエネルギーの開発が加速するだろう。

それに、需要は存在する。投資家グループは、「クリーンな1兆ドル(clean trillion)」、つまり、国際エネルギー機関(IEA)が提言しているように、年間さらに1兆ドルをクリーンエネルギーへと向けるように求めているのだ。

化石燃料をすべて燃やし尽くすわけにはいかないことは分かっている。まずは手遅れになる前に、最も気候変動の被害が大きく、経済的にも高コストの投機に対し、投資家一人ひとりがその正当性を調査する力をつけることから始めよう。

市場や企業が化石燃料リスク・プレミアムを正確に評価し始めれば、これまでと変わらない化石燃料投資と環境に考慮した気候ファイナンスとの間に公平性が生まれ、現状の悪循環を断ち切る機会がもたらされるだろう。

 

アンソニー・ホブリーは、ロンドンに拠点を置くカーボン・トラッカーの最高責任者(CEO)である

 (参考)

ブログ1を読む: 重要な低炭素未来に対する資金提供の鍵を開く (http://carbontracker.wpengine.com/unlocking-funding-for-a-vital-low-carbon-future/

ブログ3を読む: 「カーボン・バブル」はいつシステミックリスクとなるのか? (http://carbontracker.wpengine.com/when-does-the-carbon-bubble-become-a-systemic-risk/

ブログ4を読む: 規制当局は、市場が気候リスクを読み違えた際の備えがあるのか(http://carbontracker.wpengine.com/are-regulators-prepared-if-the-market-misreads-climate-risk/

カーボントラッカーのCEO、アンソニー・ホブリーへのこのテーマに関する短編ビデオインタビューはこちらから

カーボン・トラッカーのCEOが、4本のビデオとブログ記事のシリーズで、「パリ気候ウィーク」における同シンクタンクのメッセージを解説する。