潜在的なLNGプロジェクト、棚上げされて成長の妨げに

ロンドン/ニューヨーク、201577――ロンドンに拠点を置くカーボン・トラッカー・イニシアチブは本日、世界の天然ガスに関する新たな研究結果を発表した。低需要シナリオにおいて、2025年までに実行される可能性のある液化天然ガス(LNG)プロジェクトのうち、資産規模にして2830億ドル相当が生産過剰となる可能性が示された。

石炭と石油の使用量がいずれピークを迎えて下降することは間違いないが、低炭素経済への移行が意味するのは、2040年までの天然ガス需要の増加にはある程度の余地が残されているということだ。ただし、世界が地球温暖化を国連目標の2度に抑える炭素予算(carbon budget)を守ろうとするならば、エネルギー企業はどの天然ガスプロジェクトを進めるかを慎重に選ぶ必要がある。1 このことは、本報告書で分析された低需要シナリオの場合にもあてはまる。

低需要シナリオでは、今後10年間で、LNGプラントへの潜在的な資本的支出において不必要となる額は、カナダで820億ドル、米国で710億ドル、オーストラリアで680億ドルであることが判明した。2 2035年までに不要なLNGプロジェクトの金額は3790億ドルにのぼる。

「今後10年間でLNG企業が実際にどれだけ成長する可能性があるかについて、投資家はよく調べるべきです。現在、LNGが供給過剰であるということは、すでにいくつものプロジェクトが実施に向けて順番待ちになっているということです。これらのプロジェクトが必要となり、株主にとって価値を生み出すかどうかは、定かではありません」と、カーボン・トラッカーの研究部長、ジェームズ・リートンは述べる。

カーボン・トラッカーの「炭素供給の費用曲線」シリーズを締めくくる今回の分析は、投資家にとって高コスト・高炭素型プロジェクトを特定した昨年の石油と石炭に関する研究と同様のアプローチをとった。その結果、10ドル/MMBtu(MM:百万、Btu:英国熱量単位)以上のLNG価格を前提とする新規プロジェクトは今後10年において必要とされない可能性があると分かった。

ロイヤル・ダッチ・シェルがBGグループを700億ドルで買収すると合意したことにより、今後10年間で両社の大規模LNGプロジェクトが統合され、シェルはこの市場で群を抜いて最大手となる。シェルは買収提案を行った際、原油価格が1バレル当たり90ドルに回復すると想定したことを明らかにしている。これは、契約価格の一般的な算定式に基づくと、石油連動のLNG価格にして14〜15ドル/MMBtuに相当する。今回の分析によれば、2035年までの低需要シナリオにおいて、シェルとBGグループが今後実施する可能性のあるLNGプロジェクトのうち、850億ドル相当が不要である可能性が示唆される。

また、この研究により、世界の上位20位の大手LNG企業のうち16社が、2025年までの需要を満たす上で必要のない可能性がある大規模プロジェクトを今後実施しようと検討していることが分かっている。同年までの需要を満たすために必要なプロジェクトを追加しているのは、ENI、シェニエール・エナジー、ノーブル・エナジーのわずか3社に過ぎない。残り1社のトタル・グループにおいては、既に操業中か建設中のプロジェクト以外、今後10年間に新規のLNGプロジェクトを開発する予定はない。

カーボン・トラッカーのリード・アナリストで本報告書の共同執筆者、アンドリュー・グラントは次のように述べる。「北米の天然ガス産業の規模は、業界予測を下回る可能性があります――とりわけ、米国やカナダでの新しいLNG産業を期待している場合にはそうです。炭素予算をもっとも効率的に利用しようとするなら、米国のシェールガスがLNGとして輸出されるのを防ぐことが重要です」

天然ガスは最もクリーンな化石燃料だと認識され、新たな天然ガス供給源の開発のために巨額の投資が注ぎ込まれてきた。しかし、「2度目標」を掲げる世界で必要とされる天然ガスの量には制限がある。というのも、とりわけLNGは現在供給過剰であり、最も安価な資源が最初に利用される可能性が高いからである。本研究では、企業が投資を検討しているものの、最終的な決定はまだ下していないプロジェクトの分析を行っている。

カーボン・トラッカーのアドバイザーで本報告書の共同執筆者、マーク・フルトンは次のように語る。「世界が気候変動の制約を受ける状況を鑑みると、天然ガスは複雑です。石炭よりも望ましい結果をもたらす可能性がありますが、漏出による排出量を削減するための取り組みを続けなければならず、また、エネルギーミックスにおける天然ガスの比率が大きくなりすぎると、長期的には2度目標の達成を妨げかねません」

低炭素エネルギーシステムへの急速な移行をもたらす数々の要因が重なって働く、パーフェクトストーム(究極の嵐)が起きていることを、本研究は示している。再生可能エネルギーのコスト低減、省エネ対策の強化、新たなエネルギー貯蔵技術、炭素価格の上昇、変動するエネルギー価格。これらはいずれも、世界の天然ガス需要に影響を及ぼす。再生可能エネルギーのコストが低下する中、地域によっては天然ガスを飛び越えて再生可能エネルギーを利用する可能性もある。

最近、欧州の石油・天然ガス業界が世界均一の炭素価格を求めていることは、低炭素の未来においてこれらの業界が自らの役割を示すよう迫られていることの表れである。天然ガスを生産すると、極めて強力な温室効果ガスであるメタンが漏出する。天然ガスが石炭に対する気候上の優位性を維持するには、そのような「漏出による排出量」を3%未満にしなければならない。したがって、これらの業界にとって、これを最小限に抑えることが非常に重要な優先事項となるはずである。

「米国では漏出が続いている。規制当局、投資家、業界リーダーは、天然ガスが石炭よりも気候上の利点があることを何とか示そうと躍起になっている」と、カーボン・トラッカー最高責任者(CEO)アンソニー・ホブリーは語る。

温室効果ガスを最も排出しているのはLNGインフラで供給される非在来型ガスだと、本報告書は示している。しかし、幸いにも低需要シナリオでは、北米のシェールガスやオーストラリアの炭層メタンから供給されるLNGのわずか約17%しか必要とされていないことが分かった。

不要と分析されたLNGへの資本的支出の半分以上が、シェールガス、タイトガス(在来型ガスが貯留している地層よりも硬質な砂岩層に貯留した天然ガス)、炭層メタンなど、米国とカナダの非在来型ガスに関するものである。本研究によると、この供給を控えれば、将来の温室効果ガス排出が抑制されることになる。

カーボン・トラッカーの分析は、需要成長を3つの主な市場に分類している。北米市場、欧州市場、世界のLNG市場である。これらを合わせると、世界の天然ガス市場の半分になる。その他は、主に国内で生産・消費されるため、研究対象となった世界で取引される天然ガス市場との相互作用はない。プロジェクトの経済性評価によると、欧州で米国のシェールガス・ブームが繰り返される可能性を示す根拠はほとんど見当たらない。

「経済性評価によると、英国の非在来型ガス供給は、今後10年間にわたり天然ガス市場での競争に苦心し、シェールガスはプロジェクトが進んだとしてもわずかな供給量しかもたらさない可能性があることが示されました」と、アンドリュー・グラントは締めくくった。

注釈

1 基準シナリオにおける天然ガスの炭素予算は216ギガトンCO2であり、2050年までの合計予算の900ギガトンCO2の24%に相当する。これは、国際エネルギー機関(IEA)の「450シナリオ」で推定されている石炭、石油、天然ガスによる排出量の比率に基づく。この炭素予算は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)グランサム気候変動環境研究所が推定したもので、人為的な要因による地球温暖化を2度以内に抑制できる可能性を80%としている。

2 カーボン・トラッカーの低需要シナリオは、IEAの「ニュー・ポリシー・シナリオ」を下回るが、同機関の「450シナリオ」よりも上回っている(2035年までの世界の天然ガス需要の比較を示すグラフを参照)。この低需要シナリオは、需要の水準が、最新の情報や将来の計画に関する状況の変化に関連した現状維持シナリオを下回る場合を反映している。これは、今後化石燃料の需要が低下する方向へ進んでいることを示している。